このページは、東戸塚記念病院で行っている経尿道的前立腺切除術(Transurethral Resection of Prostate : TUR-P)について、できるだけ理解を深めていただくためのものです。この中では、前立腺肥大症に対して現在用いられているさまざまな手術方法について説明し、特に経尿道的前立腺切除術(TUR-P)については、それがどのようなものなのか、そして手術の前後に予想される重要な事柄についてもお知らせしています。
さらに、経尿道的前立腺切除術(TUR-P)による治療の結果として、どんな副作用がおこる可能性があるかについても述べています。これから経尿道的前立腺切除術(TUR-P)を受けようとされる方は、是非ご一読ください。このパンフレットをお読みになった後、ご不明な点があれば、担当医にご談ください。
前立腺は膀胱の下に位置し、中央やや前よりを尿道が通っています(図1)。
形は栗に似ており、主な働きは、精液の一部である前立腺液を分泌することです。前立腺の内部は、尿道に接した移行域、中心域、外側の辺縁域、そして前側にある前方線維筋性間質という4つの区域に分けられます。40歳代に移行域に形成される結節が次第に肥大増殖して腺腫となり、その腺腫が尿道を圧迫するために、さまざまな症状が出る病気を前立腺肥大症といいます(図2)。前立腺肥大症の発生原因については、男性ホルモンと女性ホルモンとのアンバランス説などいろいろな説があり、真の原因は未だ解明されていません。なお、前立腺がんはどの区域からも発生しますが、多くは辺縁域から発生します。
ループ状の電気メスを装着した内視鏡を尿道内に挿入し、患部をテレビモニターで見ながら、肥大した前立腺組織(腺腫)を尿道粘膜とともに切り取る手術です(図3)。前立腺肥大症に対する手術的治療法のなかで、経尿道的前立腺切除術(TURP)は現在の標準的手術法となっています。手術は、前立腺の大きさによって異なりますが、ふつう2時間ほどで終了します(腺腫が大きい場合はさらに長時間を要します)。
術後数日間は尿道カテーテル(尿道用の細い管)を入れておきます。
また、術後の感染予防のため精管結紮(精管を切断し術後の精管からの感染を予防する方法)を行うこともあります。
経尿道的前立腺切除術(TUR-P)は優れた手術法ですが、術者の経験や技量により臨床効果が大きく影響されるという問題があります。そうした問題点を克服するため、1990年代に入り、つぎつぎと新しい治療技術が開発・応用されてきました。
主なものに、経尿道的レーザー切除術(VLAP)、高密度焦点超音波(HIFU)、経尿道的ニードル・アブレーション(TUNA)、経尿道的組織内レーザー凝固術(ILC)経尿道的レーザー前立腺切除術(HoLEP/HoLAP)などがあります。特殊な器械が必要な場合があり、当院ではTUR-Pを行っています。このほかの手術法として開腹手術もあります。なお、当病院では高齢者や心臓病などのために手術ができない場合、尿道ステント留置を行うことがあります。これらは局所麻酔で可能な治療法です。
経尿道的前立腺切除術(TUR-P)の術前準備 腺腫が大きな場合(50g以上)は、手術の前に必要に応じて自己血貯血を行います。これは、手術前に予め採取・保存しておいた自分の血液を手術中に体内に戻す方法です。自己血採取は、貧血がないことを確認して、手術予定日の3週間以内に外来で行います。1回の採取量は約400mlで、日本赤十字社による街頭での献血量とほぼ同量です。また、万一に備えて日本赤十字社の赤血球濃厚液も準備します。
経尿道的前立腺切除術(TUR-P)は、以下に該当する方には実施できません。
また、以下に該当する方に対しては、特に慎重に施行する必要がありますので、該当する方々は担当医にお申し出ください。特に、抗凝固薬は手術約1週間前から服用を中止する必要がありますのでご注意ください。
腹部大動脈瘤、心臓ペースメーカー装着、不整脈、腎機能障害、抗凝固薬服用中 など
一般名 | 商品名 | 投与中止時期 |
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アスピリン | バファリン81、バイアスピリン、 | 7日前 |
EAC | ||
ワルファリンカリウム | ワーファリン | 4日前 |
ジピリダモール | ペルサンチン、アンギナール | 1日前 |
塩酸チクロピジン | パナルジン | 10日前 |
シロスタゾール | プレタール | 7日前 |
イコサペント酸エチル | エパデール、ソルミラン | 7日前 |
ベラプロストナトリウム | ドルナー、プロサイリン | 1日前 |
塩酸サルポグレラート | アンプラーグ | 1日前 |
トラピジル | ロコルナール、エステリノール | 3~4日前 |
リマプロストアルファデクス | オパルモン、プロレナート | 2日前 |
酒石酸イフェンプロジル | セロクラール | 2日前 |
塩酸トリメタジジン | バスタレルF | 1~2日前 |
塩酸ジラゼプ | コメリアン | 1日前 |
イブジラスト | ケタス、ピナトス | 3日前 |
ニセルゴリン | サアミオン | 2~3日前 |
塩酸オザグレル | ベガ、ドメナン | 1~2日前 |
経尿道的前立腺切除術(TUR-P)が、それぞれの患者さんにとって適切で安全な治療法であることを確認するために、いくつかの検査を行う必要があります。それらの検査には、通常の術前検査(血液・尿検査、胸部X線、心電図、肺機能検査)のほか、前立腺の大きさ、腎臓の機能、尿道狭窄の有無を調べるために行われる、超音波検査や尿路造影レントゲン検査があります。また、膀胱や尿道の機能を正確に診断するために、尿流量測定、膀胱内圧測定、圧流量検査などが追加されることもあります。
前日夜に入眠剤などを服用します。飲水・飲食は禁止します。
手術室で麻酔をかけます。麻酔法は、脊椎麻酔や硬膜外麻酔などの下半身麻酔が主ですが、全身麻酔が併用することもあります。
尿道を計測してからTUR-Pを始め、1~2時間で終了します。
術後は尿道カテーテルを膀胱まで挿入します。
尿道カテーテルにより違和感・尿意が強い場合は座薬を使用します。
尿道カテーテルを牽引します。このことで切除部位からの出血をできるだけ少なくします。
個々の患者さんにより違いはありますが、一般に、手術後は以下のような経過をたどります。
手術日 | 朝~昼食は禁止。 |
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術後1日目 | 朝尿道カテーテルの牽引を解除。 朝から飲水可能、昼より食事開始。 ベッド上での起き上がり可(状況により歩行も可)。 |
術後3~7日目 | 尿道カテーテルを抜去。シャワー可 (膀胱尿道機能が不安定なため尿閉になることがあります)。 経過が良好なら退院。 |
経尿道的前立腺切除術(TUR-P)に関連した副作用や合併症には、次のようなものがあります。
ほぼ全員にみられます。血尿の程度によっては再度手術室で内視鏡的に止血します。また、術後1ヶ月位で血尿をみることがあります。このときの血尿は通常軽度ですが、ときに強いことがあり、強いときには再度カテーテルを挿入したり手術室で内視鏡的に止血する場合があります。
多くの場合、術後2~3日間発熱します。時には38℃以上の高熱が出ることがありますが、通常、抗菌薬を予め投与しますので大事には至りません。
多くの場合、術後2~3日間疼痛があります。このときには鎮痛剤を使い疼痛を和らげます。
射精の際、精液が尿道から外に出ず膀胱の方に逆行する現象です。経尿道的前立腺切除術(TUR-P)では50~80%の頻度でおこります。精液は尿道からは出ませんが射精感は多くの場合保たれます。
内視鏡や尿道カテーテルの刺激などが原因となり、尿道の一部あるいは膀胱の出口(膀胱頚部)が狭くなることがあります(2~3%)。このときには尿は再び出づらくなります。
カテーテル抜去後に膀胱内に残っていた凝血塊や組織片により尿道が閉塞し排尿できなくなることがあります。再度、膀胱の洗浄や膀胱鏡が必要になることがあります。
原因は不明ですが、経尿道的前立腺切除術(TUR-P)後に勃起障害になることが、ごく稀にあります。
手術は灌流液という液体を内視鏡から入れながらおこないますが、大量の灌流液が体内に吸収されると、血液が灌流液で薄まり電解質異常がおこります(低ナトリウム血症)。通常、薬で補正されますが、悪条件が重なると汎発性血管内凝固症(血管内で血液が固まる病気)などを発症する可能性があります。
経尿道的前立腺切除術(TUR-P)がきっかけで不測の事態になる確率は、0.1%程あると見られています。
下肢の静脈に血栓(血のかたまり)ができ、それがはがれて移動し肺の血管が詰まることが、ごく稀にあります。その予防のため、手術中~術後1日目に弾性ストッキングを着用します。
経尿道的前立腺切除術(TUR-P)で切除された尿道粘膜が再生され、手術局所が完全に治癒するまでに約3ヶ月かかります。手術後1ヶ月間位、日常生活では次のような点につきご注意ください。
尿路感染症を防ぐためです。
1日1.5~2リットルが飲水量の目安。
水、お茶、コーヒーなど何でも結構です。
術後1ヶ月くらいで出血することがあります。
ウオーキングなどの軽い運動は構いません。
下腹部に力が入ると、出血することがあります。
通常、術後5~10日目頃に退院となりますが、病状・術後経過により個々の患者さんで違いがあります。入院・手術に伴う費用については健康保険が適用されます。
経尿道的前立腺切除術(TUR-P)を受けた方から、しばしば質問される項目についてお答えします。
日本泌尿器科学会では、次のような検査を基本項目としています。
(1)問診 (2)直腸診 (3)尿流量・残尿検査 (4)超音波検査 (5)血液検査(腎機能、腫瘍マーカー)
これらの検査で、前立腺肥大症の程度・重症度がわかります。
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泌尿器科外来
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