胃癌の手術について

胃癌について

胃癌とは

胃癌とは、胃の壁の最も内側の粘膜になんらかの原因で癌細胞が発生する病気です。
胃癌の診断は胃カメラ、胃透視により診断され、最終的には内視鏡検査で胃の粘膜を採取し(生検)、その粘膜に癌細胞が認められた際に診断されます。
胃癌にはその壁の深さで早期癌と進行癌に分けられます。

癌細胞が粘膜下にとどまるものを早期癌、筋層より深く進んだものを進行癌と呼びます一般的に筋層内には血管やリンパ管が多く存在するため進行癌ではリンパ節転移や遠隔転移が起こりやすいとされています。

病期について

胃癌の病期は 1.癌の深さ 2.リンパ節転移3.遠隔転移 の3つの因子により決定され、手術前におもに画像診断で診断される臨床病期と手術後に顕微鏡で診断される病理病期があります。

臨床病期は手術前の治療の決定に用いられ、病理病期は手術後の追加治療の必要性を図るために用いられます。

以下のように決定されます。

1 達度(癌の深さ):Tと表記

粘膜に発生した癌細胞は徐々に浸潤し増大します。癌の深さによって以下のように分類されます。 

2 リンパ節転移:Nと表記

癌細胞は胃壁内のリンパ管を流れて周囲のリンパ節に転移します。これをリンパ節転移と呼びます。転移リンパ節の数により、以下のように分類されます。
  • N0:リンパ節転移を認めない
  • N1:リンパ節転移が1~2個
  • N2:リンパ節転移が3~6個
  • N3:リンパ節転移が7個以上

3 遠隔転移:Mと表記

他臓器へ癌細胞が転移しているかどうかを表します。胃の癌細胞の転移方法にはリンパ節転移以外に、血液を流れて広がる血行転移、またお腹の中に癌細胞の種を播くようにして広がる腹膜播種があります。血行転移として多いのは肝臓ですが、その他の臓器でも肺、脳、膵臓、卵巣、大腸に転移する可能性があります。
  • M0:遠隔転移を認めない。
  • M1:遠隔転移を認める。

これら3つの因子を判断し、治療前のステージを確認致します。

  N0 N1 N2 N3 M1
T1a T1b ⅠA ⅠB ⅡA ⅡB  
T2 ⅠB ⅡA ⅡB ⅢA  
T3 ⅡA ⅡB ⅢA ⅢB  
T4a ⅡB ⅢA ⅢB ⅢC  
T4b ⅢB ⅢB ⅢC ⅢC  
M1          

空欄は全てステージIV

治療法について

治療は臨床的病期診断に基づき決定されます。

  1. Stage I で大きさが2cm以下、深達度が粘膜まで、かつ病理組織診断で分化型のもの
    はEMR(内視鏡的粘膜切除術)、ESD(内視鏡的粘膜下剥離術)という内視鏡により胃癌を切除する治療が可能です。EMRは先にお示した直径2cmまででmまでの深さの病変が適応となります。
  2. Stage I b以上は腹腔鏡手術、開腹手術など手術の適応となります。

手術について

手術には開腹手術と腹腔鏡手術があります。
開腹手術は従来から行なわれている大きな傷で開腹する方法で直視下に胃を切除(切り離し)、リンパ節を郭清(腫れていなくても予防的に取り除く)、吻合(胃と腸をつなげる)を行います。
創痛が強い、整容的に傷が目立つなどの短所があります。

腹腔鏡手術とは

基本的にはあまり癌細胞の侵潤が深くないこと、術前検査でリンパ節に転移が無いこと(もちろん遠隔転移が無いこと)が判明している時に選択する治療法です。
小さな傷からカメラと細い鑷子をお腹の中にいれて、術者と助手がテレビモニターを見ながら手術をする方法です。

開腹手術と比較してメリットは①創部痛が少ない②早期離床が可能である③早期退院が可能である、など「低侵襲」に集約されます。しかし開腹手術と比較するとやや時間がかかること、また癌の浸潤や周りの臓器の状況によっては開腹手術へ変わってしまうことがデメリットとされています。

術後の治療について

切除された標本を顕微鏡で診断し病期を決定し病期IIより進行している場合は補助化学療法という経口による抗がん剤投与をおこないます。

合併症について

  • 術中出血・後出血
    手術は体にメスをいれますので出血は必発です。私達は止血しながら手術を進めていきます。術中貧血が進んだ場合やむを得ず輸血をすることがあります。また術後再出血を認めた際には再手術をする可能性があります。
  • 縫合不全
    残った胃と腸をつないだ部分が漏れる事です。まず絶食で自然に漏れた穴が塞がるのを待ちます。ただし細菌感染などによりお腹の中に膿がたまったり穴が大きい場合は再手術となる場合もあります。
  • 腸閉塞
    手術を行った結果、腸が癒着(腸がお腹の中の胃様々な部分にくっつくこと)、または腸が全く動かなくなってしまうことで食べ物をとれなくなったり、嘔吐、便秘を起こしたりすることがあります。その際にはしばらく絶食してお腹の動きが戻るまで待ちますが、それでも改善しない場合たまってしまった食べ物や腸液を外に出すために鼻から管(胃管、イレウス管)を入れることもあります。
  • 吻合部狭窄・通過障害
    胃と腸をつなげたところが狭くなってしまい、食べ物が通過できなくなりお腹が張ったり、食べたものを吐いたりします。その際には内視鏡で風船を用い狭いところを広げたり、時には再手術することで狭窄を解除します。
  • 術後膵炎
    術後、胃の近所に位置している膵臓が手術の際の接触で炎症をおこしてしまう可能性があります。お腹の上の痛みや背中の痛み、体の中に入っている管の色の変化などで気付きます。絶食や点滴、時には新しい管をお腹にいれることもあります。
  • その他
    年齢的な変化により術中、術後、手術とは直接関係ない合併症がおこる場合があります。
    一般的には心臓の障害(心筋梗塞、不整脈、心不全)、肺の障害(肺炎、肺梗塞)、腎臓の障害(腎不全)、肝臓の障害(肝不全、肝炎)等が挙げられます。これら予測し得なかった合併症が起きても、当院の他科のスタッフと協力して治療にあたらせて頂きます。

以上、挙げた合併症は全て起こる可能性が低いものばかりですが、100%起きないとは言えない為に列挙させて頂きました。決して不安を持たせるためのものではないことをご理解ください。

手術について

原則的には前日まで食事が可能です。中には胸やけ、おう吐などの症状が強い方にはそうでないこともあります。
朝からは点滴管理とし、体調管理をしていただきます。胃の内容物(胃液やガス)を吸引するために入室前に鼻から管を入れさせていただきます。

手術室に入るとまず原則的には術後の疼痛管理のため背中から麻酔のための管をいれます。そのあとは術中に身体管理をするための器具をいくつか装着します。準備を整え、眠ってもらうまで約40分~60分です。
手術は開腹で2~3時間、腹腔鏡で4~5時間を予定しておりますが、安全を第一に考えておりますので状況によっては時間が前後することがあることをご了承ください。
手術が終わりましたらご家族をお呼びし、手術の結果について説明します。

身体には管理のための器具が装着しており、お腹からはドレーンという管、また尿道バルーンがつながっています。麻酔から覚めると痛みを自覚することがありますので御遠慮なく看護師に伝えてください。

翌日以降できる限り歩行をしてください。尿道バルーンもはずし、ベッドから離れている時間が多ければそれだけ術後の合併症を減らすことがわかっています。
手術が終わっても数日は縫い合わせた部分に負担がかからないよう経口摂取はできません。数日後に透視室にて造影剤を服用してもらい、漏れがないか、流れに問題ないかを確認します。その結果によって飲水、食事開始時期を判断します。身体からの管は性状、量をみて抜去いたします。

退院まで個人差はありますが、約2週間と考えています。正確な日時はその都度、相談させていただきます。

最後に・・・

今回の治療を行っていく上で、手術治療はあくまでも私達による僅かなサポートの一つであることをご理解ください。患者様ご自身の回復していく意志が大切であり、患者様の御協力がなくては治療できないのです。1か月以上前からの禁酒・禁煙はもちろんのこと、入院時からの呼吸訓練、術後早期からの積極的な歩行訓練など全てが治療に必要な要素なのです。患者様の治療に関しましては、私達外科スタッフ一同、入院から退院まで最大限の努力を致します。しかし、結果は100%保証されるものではなく、不確実な部分も存在します。万が一合併症が起きた際にも最善の対処を致しますし、退院まで全力でサポートさせて頂きます。これらの点を十分にご理解の上、手術に同意、承諾してくださいますようお願い申し上げます。

東戸塚記念病院
神奈川県横浜市戸塚区品濃町548-7
外科部長 松本 匡史
参考文献 【胃癌取扱規約 第14版】

外科