大腸癌の手術について

大腸癌について

大腸癌は食事や遺伝など後天的な因子で粘膜内に癌細胞が発生した病気です。
大腸は回盲部、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸、に分かれます。

診断

大腸癌、は内視鏡検査や注腸検査(バリウム)により、肉眼で形をみて診断できます。 最終的には内視鏡検査の際に粘膜の一部をとる生検により確定されます。

進行度について

大腸癌は深さによって早期癌と進行癌と分けられます。
早期癌とは、粘膜下層部にとどまったもの。進行癌とは、筋層を越えて進んでいるものを指します。
一般に筋層内にはリンパ管や血管が多く存在し、癌がその内に入ることにより血管リンパ管を通り全身に広がり進行癌はリンパ節転移や遠隔転移が多いといわれています。

病期について

病期はT(大腸壁内の深さ)、N(リンパ節転移の数)、M(遠隔転移の有無)で決定されます。

①深達度
大腸がん(大腸癌)の壁深達度
M がんが粘膜内にとどまり、粘膜下層に及んでいない
SM がんが粘膜下層に浸潤しているが、固有筋層に及んでいない
MP がんが固有筋層まで浸潤しているが、これを超えていない
SS がんが固有筋層を超えて浸潤しているが、漿膜表面に露出していない
SE がんが漿膜表面に露出している
SI がんが直接他臓器に浸潤している
②リンパ節転移
大腸がん(大腸癌)のリンパ節転移
N0 リンパ節転移を認めない
N1 腸管傍リンパ節と中間リンパ節の転移総数が3個以下
N2 腸管傍リンパ節と中間リンパ節の転移総数が4個以下
N3 主リンパ節または側方リンパ節に転移を認めるもの
N3より遠いリンパ節(傍大動脈リンパ節)に転移を認める場合はM(遠隔転移)とする
③遠隔転移
大腸がん(大腸癌)の肝臓転移、腹膜転移、その他遠隔転移
腹膜転移を認めるもの。播種性転移のすすみ具合によりP1からP3に分類される。腹膜への播種性転移がない場合はP0。
肝転移を認めるもの。肝転移のすすみ具合によりH1からH3に分類される。肝転移がない場合はH0。
肺など(肝臓以外)の遠隔臓器への転移やN3より遠いリンパ節(傍大動脈リンパ節)に転移を認めた場合はMとする
④ステージ
大腸がん進行度(ステージ分類)<大腸癌取扱い規約第7版>
  N0 N1 N2,N3 H,P,M
壁面深達度 M 0
SM,MP 3A 3B
SS,SE,A
SI,AI
3A 3B

治療について

大腸癌の治療法は大きく分けて二つあります。一つは大腸カメラを用いる内視鏡治療、もう一つは外科的治療があり、アプローチとして開腹手術、腹腔鏡手術があります。

  1. 内視鏡治療
    原則的にはリンパ節転移がない、腫瘍が一度の切除ですべて取り切れる大きさであることが治療の対象です。
    粘膜内、粘膜下層に軽度浸潤癌腫瘍の大きさが20㎜未満以上が原則的な条件となります。
  2. 外科的治療
    原則的には内視鏡的治療が不可能である腫瘍が対象になります。癌を中心とした範囲の腸を約30㎝ほど切除します。また周囲のリンパ節も切除し、腸をつなぎます。

開腹手術

腹部を切開し、直視下で行う方法です。傷の大きさは病変の大きさや発生部位によりかわりますが、以前より行われてきた方法であり、比較的安定して行える反面、出血が多くなりやすいこと、術後の傷の痛みが大きいことがデメリットとされています。

腹腔鏡手術

お腹の中を二酸化炭素で充満させ、作業空間を作ります。そこに、カメラのついた細長いスコープを挿入しテレビモニターを見ながら手術を行います。細い道具を繊細に使うことでより細かい作業が可能になると供に、傷口が小さいことによる術後の痛みの軽減、また合併症を相対的に少なくすることで早い時期からの社会復帰が可能となることがメリットとされています。
しかし開腹手術と比較するとやや時間がかかること、また癌の浸潤や周りの臓器の状況によっては開腹手術へ変わってしまうことがデメリットとされています。

治療成績について

大腸癌の治療技術は向上しており、手術で完全に取りきれる可能性は全体で80%です。しかし再発率は20%というのも事実です。転移再発臓器の中では肝臓、肺が多く、限局していれば外科切除が可能です。その結果生存率の向上が望めます。

手術が終わった後、癌病変を顕微鏡検査に提出し、改めて深達度、リンパ節転移を確認します(病理検査)。その結果ステージⅢ以上であれば抗がん剤治療が必要となります。約2週間で結果が出ますので外来にて改めて説明いたします。

合併症について

  1. 出血
    術後に貧血を認めた場合は輸血をします。術後再出血を認め輸血をしても貧血が進む、または血圧が維持できないと判断した場合は再手術を行い止血する事があります。
  2. 感染
    術後に創部(傷口)、腹腔内(お腹の中)に感染を伴うことがあります。点滴治療など適切な対処いたします。その他肺炎、尿路感染を認めることもあります。
    ※お腹の中からでている管はこの出血を知らせてくれる『情報』という役割と、膿を体の外にだしてくれる『治療』という両方の役割をしてくれます。必要がないと判断すれば抜去します。
  3. 縫合不全
    腸をつなぎ合わせた部分が十分にくっつかないことを言います。3~5日目、また10日目以降に見られ、腸液、食物がもれることで、腹痛、発熱を生じます。絶食と抗菌薬やなどで対応しますがそれでも効果が不十分な場合は再手術をすることもあります。
  4. 腸閉塞
    手術をすることで腸が癒着(お腹の中のいろいろな所にくっつく)したり腸の動きが止まったりすることで腸内容の流れが止まります、それにより腹痛やおう吐などの症状が出現します。
    絶食で回復を待ちますが、それでも不十分な場合には鼻から管をいれ腸内容を吸引します。
    レントゲン、排ガスなどを目安に治療の評価を行います。
    さらに流れが改善しない場合は手術を行う場合もあります。

その他、心臓障害(心不全、不整脈、心筋梗塞)、肺障害(肺梗塞)、肝障害(薬剤性肝炎)、腎障害(腎不全)、脳障害(脳梗塞、脳出血)、エコノミー症候群など、今回の手術とは直接関係を持たない予期しえない合併症が稀に起こることがあります。
各科スタッフと綿密に連携をとり速やかに対応させていただきます。

手術日を迎えるにあたって

患者様個々には糖尿病や高血圧など様々な疾患を持っているかと思います。喫煙もそうですが全ては手術するにあたってしっかりとした管理を行わなければ安全に行うことは困難になります。喫煙はできれば1か月以上から禁止とし、入院中は呼吸訓練を行っていただきます。糖尿病、高血圧は術前までしっかりと治療を行い管理していただくようお願いいたします。

手術について

原則的には前日まで食事ができます。中には便秘、下血などの症状がある方はそうでないこともあります。
手術日当日は朝から点滴管理となります、手術室に入るとまず原則的には術後の疼痛管理のため背中から麻酔のための管をいれます。そのあとは術中に身体管理をするための心電図など装着します。準備を整え麻酔がかかるまでまで約30分~60分です。
手術は開腹で2~3時間、腹腔鏡で3~5時間を予定しておりますが、安全を第一に考えておりますので状況によっては時間が前後することがあることをご了承ください。
手術が終わりましたらご家族をお呼びし、手術の結果について説明します。

身体には管理のための器具が装着しており、お腹からはドレーンという管、また尿道バルーンがつながっています。麻酔から覚めると痛みを自覚することがありますので御遠慮なく看護師に伝えてください。
翌日以降はできる限り歩行をしてください。尿道バルーンもはずし、ベッドから離れている時間が多ければそれだけ術後の合併症を減らすことがわかっています。
手術が終わっても数日は縫い合わせた腸管に負担がかからないよう経口摂取はできません。排ガス、排便、レントゲンによって飲水、食事開始時期を判断します。
身体からの管は性状、量をみて抜去いたします。

退院まで個人差はありますが、約2週間と考えています。正確な日時はその都度、相談させていただきます。

最後に・・・

今回の治療を行っていく上で、手術治療はあくまでも私達による僅かなサポートの一つであることをご理解ください。患者様ご自身の回復していく意志が大切であり、患者様の御協力がなくては治療できないのです。1か月以上前からの禁酒・禁煙はもちろんのこと、入院時からの呼吸訓練、術後早期からの積極的な歩行訓練など全てが治療に必要な要素なのです。患者様の治療に関しましては、私達外科スタッフ一同、入院から退院まで最大限の努力を致します。しかし、結果は100%保証されるものではなく、不確実な部分も存在します。万が一合併症が起きた際にも最善の対処を致しますし、退院まで全力でサポートさせて頂きます。これらの点を十分にご理解の上、手術に同意、承諾してくださいますようお願い申し上げます。

東戸塚記念病院
神奈川県横浜市戸塚区品濃町548-7
外科部長 松本 匡史
    参考文献 【癌取扱規約】

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