鼠径ヘルニアの手術について

鼠径ヘルニアとは

「鼠径ヘルニア(そけいヘルニア)」とは、本来ならお腹の中にあるはずの腹膜や腸の一部が、加齢とともに筋肉の脆弱性により足の付け根の部分(鼠径部)より脱出する病気です。一般の方には「脱腸」とも呼ばれています。

症状について

初期は、立った時などお腹に力を入れた時に鼠径部の皮膚の下に腹膜や腸の一部などが出てきて柔らかい腫れができますが、普通は指で押さえると引っ込みます。次第に小腸などの臓器が出てくるので不快感や痛みを伴ってきます。はれが急に硬くなったり、膨れた部分が押さえても引っ込まなくなることがあり、お腹が痛くなったり吐いたりします。これをヘルニアのカントン(嵌頓)といい、急いで手術をしなければ、命にかかわることになります。

治療について

治療法は手術が第一で、手術法は従来法と腹腔鏡があります。治療法は、腸が出てくるヘルニア門を人工物で閉じることとなります。

  1. 従来法
    鼠径部に5㎝程の傷をつけてヘルニア嚢(ヘルニアの袋)を処理しヘルニア門を確認しプラグメッシュ(人工物)を固定します。
    メッシュはポリプロピレンという人体に無害な素材です。直視下で行い時間は約30分~1時間で終了します。デメリットとしては術後にやや腫れが残ること、腹腔鏡と比較して痛みが強いことがあります。
  2. TAPP(腹腔鏡手術)
    臍に12mmのポート、下腹部に2か所5mmのポートを挿入しカメラを挿入しモニターを見ながら行なう手術で従来法とは違いお腹の中から腹膜を切開しヘルニア門の後ろ側(腹腔内)よりメッシュを挿入し腸が入り込まないようにする手術で後方アプローチとも呼ばれます。創が小さいため痛みが少なく早期の退院が可能です。
    また運動も可能です。短所としてはヘルニアの袋が残るため鼠径部が暫く手術前と同じように腫れることがあります。
    また開腹手術と比較するとやや時間がかかること、また周りの臓器の状況によっては開腹手術へ変わってしまうことなどがあります。
図:TAPP(腹腔鏡手術)
腹腔鏡手術が頻繁に行われるようになりましたが、ヘルニア手術にも積極的に導入されています。
図:TAPP(腹腔鏡手術)
直接筋肉や神経に触れることがないため腫れや痛みが比して少ないことがわかっています。

合併症について

  1. 出血
    従来法の場合皮下に細い動脈静脈が術後出血し、皮下血腫を作ることがあり、再手術止血が必要となることがあります。
  2. 感染
    術後に創部や人工物であるシートが感染し膿瘍を作ることがあります。多くは点滴治療にて改善を認めますが、難治性の膿瘍、または症状がひどい場合には再手術をする必要があります。
  3. 再発(対側再発)
    シートをひくことでヘルニア門を確実にふさぎ、腸の脱出を防ぐのが治療の内容です。しかし稀に腹圧などによりシートの隙間から腸が再び脱出することがあります。
  4. その他
    心臓障害(心不全、不整脈、心筋梗塞)、肺障害(肺梗塞)、肝障害(薬剤性肝炎)、腎障害(腎不全)、脳障害(脳梗塞、脳出血)、エコノミー症候群など、今回の手術とは直接関係を持たない予期しえない合併症が稀に起こることがあります。
    このような合併症が生じた場合には、各科スタッフと綿密に連携をとり速やかに対応させていただきます。

最後に

この文書は御自分の病気を十分に知り、ご理解納得したうえで治療を受けて頂きたいという想いで作成しました。もちろん、セカンドオピニオン(他院の意見)をお求めの方は遠慮なく申し付け下さい。
今回手術をすることで少ない頻度ではありますが、個々の身体状況に関連する合併症、または予測しえない偶発症が発生する危険が存在します。外科スタッフ、看護師一同手術前後を通して最大限の努力をしていくつもりですが、100%保証されるものではなく不確実な部分も存在します。これらの点を十分ご理解した上で手術に同意・承諾していただけたら幸いです。

東戸塚記念病院
神奈川県横浜市戸塚区品濃町548-7
外科部長 松本 匡史

外科